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東京高等裁判所 昭和59年(う)923号 判決 1984年9月27日

被告人 Y(昭○・○・○生)

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中九〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人工藤健蔵、同寺坂宣雄が差し出した控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官山田一夫が差し出した答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意第一、第二(事実誤認並びに法令適用の誤りの主張)について

所論は、要するに、被告人の各児童に対する支配は正当な雇用関係に基づくものであり、かつ、被告人が児童らにさせた行為はその心身に有害な影響を与えるものではないばかりでなく、その中には児童らを自己の支配下に置く以前の行為や強制してさせたものでないものも含まれているのに、被告人につき児童福祉法六〇条二項、三四条一項九号の罪の成立を認めた原判決には、事実誤認、法令適用の誤りがある、というのである。

1  しかしながら、原判決挙示の諸証拠を総合すれば、被告人らの原判示各児童に対する支配が正当な雇用関係に基づくものでないことは明らかである。すなわち、被告人らの原判示各児童に対する支配は、暴力団組織の幹部とその輩下という一種の身分的従属関係を背景若しくは基盤とするものであつて、各児童の提供する役務の内容及び性格が後に判示するとおりであるばかりでなく、右役務と対償関係にある一定の賃金を支払うことの約束があつたことも証拠上認められないのであるから、その間に有効な雇用契約の存在しなかつたことはもとより、その支配関係の正当性も認め難いのである。してみれば、そもそも被告人には、本件犯罪の成立を阻却する法定の除外事由が存在しないものといわなければならない。

2  原判決挙示の諸証拠によれば、被告人は右の各児童らを原判示の被告人方自宅兼事務所に住み込ませた後もなお、暫くの間児童らに命じて、いわゆる「パチンコの代打ち」をさせたこと、被告人らは児童らに対して原判示事務所の電話番をするよう命じてその役務に従事させたこと及び児童らが暴力団関係者の刑務所からの出所出迎えに参加したのは、被告人の指示に基づくものであることが認められる。右認定に反する被告人及び証人Aの原審公判廷における各供述はいずれも措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。ところで、なるほど、パチンコの代打ちや暴力団構成員が経営する事務所の電話番、出所出迎えそのものが、格別法令に違反する行為にはあたらないとしても、いずれの場合も暴力団組織の幹部とその輩下という前叙の従属関係のもとで児童らをかかる役務に従事させたのであるから、この観点より右役務そのものの内容及び性格を考察すると、やはりそれらはいずれも児童の心身に有害な影響を与える行為とみるのが相当である。また、原判示の競艇場における競艇レースの練習タイムの測定、コース順、レース結果の見分、競艇場から事務所への電話連絡の役務は、いずれもモーターボート競走法二八条二項が処罰の対象とする勝舟投票券の購入代行業務の一環をなす行為、ないしはその準備行為にあたるから、これらが児童の心身に有害な影響を与える行為であることはいうまでもない。さらに、児童福祉法三四条一項九号所定の児童を「自己の支配下におく行為」というのは、児童の意思を左右できる状態におくことによつて使用、従属の関係が認められる場合をいうものと解されるから、かかる関係が存在する以上、所論のように被告人らが児童らに対し、暴力団関係者の刑務所からの出所出迎えの役務に従事させた際、これを強制した事実が存在するか否かは、同条項違反罪の成否に影響を及ぼすべき事由とはならない。さらにまた、児童らを被告人方自宅兼事務所に住み込ませるに際し、たとえそれが児童らの希望に基づくものであり、その親権者らもこれに同意していたとしても、かかる事情は本件犯罪の成否を左右すべき事由とはならない。してみれば、被告人の原判示行為が、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつて、これを自己の支配下に置いた場合に該当することは明らかである。

それゆえ、原判決に所論のような事実誤認または法令適用の誤りはなく、論旨はいずれも理由がない。

控訴趣意第三(量刑不当の主張)について

所論は、原判決の量刑不当を主張するものであつて、犯情に照らし、刑を軽減するのが相当である、というのである。

そこで、原審記録を精査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して、所論の当否を検討するに、本件犯行の動機、罪質、態様、ことに、本件行為は児童らの心身に与えた有害の影響も高度のものと認められること及び被告人の性行、経歴、前科など諸般の情状にかんがみると、その犯情はよくなく、厳しい非難を免れない。してみれば、肯認しうる所論指摘の被告人に有利な情状を十分考慮に入れてみても、原判決の量刑は、まことにやむをえないところであつて、これが重きに失して不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、刑法二一条を適用して当審における未決勾留日数中九〇日を原判決の刑に算入することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺澤榮 裁判官 片岡聰 小圷眞史)

控訴趣意書及び答弁書<省略>

〔参照〕原審(静岡家 昭五八(少イ)二号 昭五九・五・一〇判決)

主文

被告人Y1を懲役八月に、被告人Y2を懲役六月に処する。

被告人Y1に対し、未決勾留日数のうち三〇日をその刑に算入する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人Y1は、暴力団a組系b組内c組幹部であり、被告人Y2はその子分であるが共謀の上、法定の除外事由がないのに、A(昭和○年○月○日生)、B(昭和○年○月○日生)の両名を一八歳に満たないものであることを知りながら、昭和五八年七月一二日ころから、右Aについては同年九月二七日ころまでの間、右Bについては同年八月末ころまでの間、静岡市<以下省略>の三の被告人Y1方自宅兼事務所に住み込ませ、競艇場における競艇レースの練習タイムの測定、コース順、レース結果等の見分、競艇場から事務所への電話連絡、パチンコの代打ち、事務所での電話番、暴力団関係者の刑務所からの出所出迎え等の用務に従事させ、もつて児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的でこれらを自己の支配下に置いたものである。

(証拠の標目)

<省略>

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人らの行為は「児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的で自己の支配下に置く行為」にあたらないので被告人らは無罪であると主張する。

しかし、被告人らが本件児童らに行なわせた判示の各行為が健全な社会通念に照して児童の心身に有害な影響を与える行為であることが明らかであり、又証拠上認められる被告人らの本件各児童及び本件児童と類似の関係にあるCに対する対応の状況を総合すると、被告人らが本件各児童を自己の支配下に置いたものと認められ、そして右の支配は正当な雇用関係に基づくものではないと認められる。

よつて、弁護人の右主張は採用できない。

(累犯前科)

被告人Y1は、昭和五六年六月二六日静岡地方裁判所で犯人蔵匿、証憑湮滅の罪により懲役一年二月に処せられ、昭和五八年四月一三日右刑の執行を受け終つたものであつて、右事実は検察事務官作成の昭和五八年九月一日付前科調書によつてこれを認める。

(確定裁判)

被告人Y2は、昭和五八年一一月二二日静岡地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役八月に処せられ、右裁判は昭和五八年一二月七日確定したものであつて、この事実は検察事務官作成の昭和五九年一月二七日付の前科調書及び判決書謄本によつてこれを認める。

(法令の適用)

一 被告人Y1の判示各所為は、いずれも刑法六〇条、児童福祉法六〇条二項、三四条一項九号に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、同被告人には前記の前科があるので刑法五六条一項、五七条により再犯の加重をし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の重いと認めるBに対する罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役八月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数のうち三〇日を右刑に算入することとする。

二 被告人Y2の判示各所為は、いずれも刑法六〇条、児童福祉法六〇条二項、三四条一項九号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上の各罪と前記確定裁判のあつた罪とは同法四五条後段により併合罪の関係にあるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない判示各罪について更に処断することとし、なお、右の各罪もまた同法四五条前段により併合罪の関係にあるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重いと認めるBに対する罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役六月に処することとする。

三 訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 長嶺信栄)

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